F値(絞り値)の基本|風景写真をf8で撮る理由を説明できますか?
プロの作例を観るとわかるように、多くの風景写真がf値(絞り値)f8~11の設定で撮影されています。
なぜ、このf値(絞り値)が使われるかわかりますか?
その理由は、f値(絞り値)8~11は、レンズの性能を最大公約数的に最も引き出せる設定だからです。
f値(絞り値)と写真の仕上がりの関係を理解すると、カメラのレンズを今以上に上手く使って、ワンランク上の作品を撮ることができますよ。
Contents
f値(絞り値)8~11は風景写真で定番の設定
まずこちらの作例をごらんください。
朝夕の風景、自然風景、夜の都市風景、など様々な風景写真が並んでいます。
どの作例もf値(絞り値)がf8~11で撮影されていることに注目してください。
なぜ風景写真はf値(絞り値)8~11で撮影された作品が多いのでしょうか?
それには、ちゃんと理由があります。
f値(絞り値)はボケ具合だけでなくレンズ性能にも影響する
まずf値(絞り値)の基本をおさらいしましょう。
f値(絞り値)とは、カメラに入る光を制限する仕組みでしたよね。f値(絞り値)を変えるとカメラに入る光の量が変化して、写真のボケ具合が変わることはご存知だと思います。
まだf値(絞り値)のことがよくわからない方は、こちらの解説記事をご覧ください。
f値(絞り値)は写真のボケ具合を変化させるだけではありません、実はレンズの性能にも影響します。
写真はレンズを通った光の像から作られます。したがってレンズの性能次第で、写真の仕上がりは変わります。
最近のレンズはよくできているので、初心者向けのリーズナブルなレンズでも十分キレイな写真を撮ることができます。
一方で、何十万円もする高級レンズを使えば、より精細で歪もないスッキリした写真を撮ることができます。
このレンズの性能=写真の仕上がりは、レンズのクオリティだけでなく、f値(絞り値)を変えることで変化します。
具体的には、以下の3つが変わります。
・解像度 = 写真の精細さ
・収差 = 写真の歪み
・周辺減光 = 写真の周辺部の明るさ
実際に、f値(絞り値)を変えると写真の仕上がりがどう変わるか?を見てみましょう。
こちらの作例は、f値(絞り値)をf2.8からf22まで段階的に変えた作例です。違いがわかりますか?
このサイズで比較してもよくわからないですね。そこで拡大したり他の作例を交えながら詳しく解説します。
f値(絞り値)でレンズの解像度=写真の精細さが変わる
このように、ウェブに小さくアップするサイズだと、f値(絞り値)による違いはほとんどわかりません。
そこで、A3、A2サイズ以上に大きくプリントする想定で、写真を拡大してみましょう。
すると、少し違いが見えてきました。f2.8、f5.6、f8、f22で比較すると、f8が最も精細に見えます。
つまり、f値(絞り値)を開放からf8に変えると、レンズの解像度が良くなる、ということです。
またf値(絞り値)をf22にすると、逆に精細さが低下することがわかります。
この理由は後ほど解説します。
f値(絞り値)でレンズの収差=写真の歪が変わる
レンズの解像度はf値(絞り値)を絞ると良くなることがわかりました。
次にチェックするレンズ性能は「被写体を歪みなく忠実に再現できるかどうか?」です。
レンズの収差(しゅうさ)はあまり聞き慣れない言葉だと思います。これは写真にしたときの像の歪みです。
例えば光の点を写真に撮ったとき、点で写らずに変な形で写ることをいいます。特に写真の中心部より周辺部の方が歪みは目立ちます。
このレンズの収差=写真の歪みもf値(絞り値)で変化します。
実際にf値(絞り値)を変えると、点光源の歪の形が変化して、f8やf11では完全な点光源として写っていますね。
風景写真では画面の隅々までクッキリと精細に描写することが好まれるので、収差は少ないほうが望ましいですね。
レンズ収差はf値(絞り値)を絞ることで改善するので、しっかり撮りたいときは開放F値ではなく、積極的にf値(絞り値)を絞って使うようにしましょう。
f値(絞り値)でレンズの周辺減光=写真周辺部の明るさが変わる
周辺減光というのは、写真の周辺部(主に四隅)で写真の明るさが暗くなることです。例えばこちらの写真をご覧ください。
※ 周辺減光がわかりやすいように、RAW現像でコントラストを上げています
青空を撮った写真で、本来なら同じ明るさになるはずですが、写真の四隅が少し暗くなっています。これが周辺減光です。
ではf値(絞り値)を変えて撮ってみましょう。
周辺減光の変化がわかりやすいように、コントラストを強めに処理しています。このように、f値(絞り値)を絞ると、周辺減光が改善されて写真の明るさが均一になることがわかります。
f値(絞り値)を絞る理由はレンズの美味しいところを使えるから
これまで、f値(絞り値)を変えるとレンズの性能が変わることを見てきました。
なぜレンズの性能はf値(絞り値)に影響されるのでしょうか?
こちらはカメラの仕組みを簡単に表したものです。レンズは何枚ものガラスでできていますが、ここでは1枚のレンズで表しています。
f値(絞り値)の設定を開放F値にすると、カメラに入る光はレンズのすべての面を通ります。
一方で、f値(絞り値)を絞ると、カメラに入る光はレンズの中心部分だけを通ります。
レンズはとても精密な品物です。理想的にはレンズのどこを通った光でも、正確にカメラの撮像素子へ届けることが理想です。
しかし実際には、レンズを通った光は少しボケたり歪んだりします。一般的にはレンズの中心よりレンズの周辺の方がどうしても性能が落ちてしまいます。
つまり、f値(絞り値)を絞ることで、性能が最もよいレンズ中心部を通った光だけで写真をつくることができます。これが、f値(絞り値)でレンズ性能が変わる理由です。
ちなみに、周辺減光はレンズの性能だけでなく、その他の要因も絡んできます。ちょっとむずかしいお話になるので、また別の記事で解説しますね。
f値(絞り値)をf16以上に絞ると回折現象で解像度が悪くなる
ここまで、f値(絞り値)を絞ったほうがレンズ中心部の良い部分を使えるのでおすすめ。というお話をしてきました。
ただし、f値(絞り値)は絞りすぎると逆効果になります。
こちらは解像度を比較した作例の続きです。f値(絞り値)をf22まで絞ると、急に写真がボケたように見えます。
これは回折現象といって、小さい穴を光が通るときに、光が波状に周囲に広がってボケてしまう物理現象です。
高校生の物理で習う現象ですね。一般的にはf値(絞り値)がf16以上になると、回折現象が原因で写真の解像度が低下します。
実はこの回折現象はフィルムカメラの時代にはあまり問題になりませんでした。ルーペで拡大しても、違いがわかりにくかったからです。
デジタルカメラになって、高画素の写真をパソコンのモニタで拡大表示ができるようになってから、気になり始めた問題です。
またブローニーとか中判のフィルムカメラを使っていた方は、f32とかf64といった大きなf値(絞り値)がよく使われています。これはフィルムサイズ(=撮像素子)のサイズがぜんぜん違うので、f値(絞り値)も違う数字が使われます。
したがって、中判のフィルムカメラで撮影された作品のカメラ設定を見て、f32とか書かれていても真似しちゃだめですよ。
まとめると、風景写真はf値(絞り値)8~11がベスト設定
ここまで、f値(絞り値)でレンズの性能が変わることをお伝えしてきました。まとめとして、風景写真に最適なf値(絞り値)を考えてみましょう。
一般的な風景写真に求められる要件と、レンズの性能を考慮したf値(絞り値)は次のとおりです。
・解像度は高いほどよい → f値(絞り値)を絞る
・収差は小さいほどよい → f値(絞り値)を絞る
・周辺減光は小さいほどよい → f値(絞り値)を絞る
一方で、解像度は回折現象があるので、f16以上に絞ると逆に解像度が低下します。その結果、f8-11が風景写真にとってベストな設定といえますね。
f値(絞り値)よりもっと大切なのはシャッターチャンスと構図
ただし、f値(絞り値)8~11でレンズ性能を最大限に活用できたとしても、素晴らしい風景写真が撮れるとは限りません。
そもそも、感動する風景に出会えなかったり、構図が甘かったり、手ブレを起こしてしまうと、せっかくの写真が台無しになってしまいます。
そこで素晴らしい風景写真を撮るために、影響の大きいものをランキングしました。
影響度ランキングの1位はシャッターチャンスです。写真は「その時、その場所にいること」が大事と言われますが、感動風景に出会うことが大前提ですね。
次に影響度が大きいのは、構図です。写真を観た人に「何に感動したか?」を的確に伝えるために、余計なものを画面から追い出してバランスよくまとめることが大切です。
このシャッターチャンスと構図で風景写真のインパクトはほぼ決まります。以下のランキングは、写真の完成度を上げるための要素です。
3位は三脚を使って手ブレのない写真を撮ることです。せっかく素晴らしいシャッターチャンスに出会い、申し分ない構図で切り取ったとしても、写真がブレていると台無しです。
4位にようやくカメラ設定です。この記事で解説してきたf値(絞り値)とISO感度で写真の解像度やザラザラ感が決まります。
つまり、カメラのf値(絞り値)にこだわるのは大切なことですが、それ以上にシャッターチャンスに出会うこと、構図をしっかり決められることの方がはるかに重要です。
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